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ビジネス方法の特許性についてのCAFC判決(Bilski判決)が出る  

古谷国際特許事務所ニュースレター155号
(C)2008.11 FURUTANI PATENT OFFICE
2008.11.3



概要


 米国の連邦控訴裁判所(CAFC)は、注目されていた、ビジネス方法の特許性についての判決(Bilski(ビルスキー)判決)を、2008年10月30日に下した。大法廷での判断であり、しかも、これまでの最高裁の数々の判例を整理して引用しており、力の入った判決である。判決では、machine-or-transformation test((i)機械の使用あるいは対象の変換が意味のある限定となっており、(ii)これら機械の使用あるいは対象の変換がとってつけた重要性のないものでないこと)を採用するとした。問題となっていた取引方法が法定の主題に合致しないという特許庁の審決を維持した。
(追加)その後、本事件は最高裁に上告された。最高裁は、machine-or-transformation test自体は適切であるとしつつも、このtestだけが唯一の判断基準ではないと示した。これを受けて、米国特許庁は、2010年7月、暫定審査ガイドラインを発表している。これらの追加情報については、ニュースレター160号を参照のこと。(2010年8月19日追加)。

内容


■背景
 出願人(Bernard L. BilskiおよびRand A. Warsaw)は、1997年4月10日、商品の取引におけるリスクヘッジ方法について特許出願を行った。請求項1は、以下のとおりである。
Claim 1
A method for managing the consumption risk costs of a commodity sold by a commodity provider at a fixed price comprising the steps of:
(a) initiating a series of transactions between said commodity provider and consumers of said commodity wherein said consumers purchase said commodity at a fixed rate based upon historical averages, said fixed rate corresponding to a risk position of said consumer;
(b) identifying market participants for said commodity having a counter-risk position to said consumers; and
(c) initiating a series of transactions between said commodity provider and said market participants at a second fixed rate such that said series of market participant transactions balances the risk position of said series of consumer transactions.

Claim 1参考訳
商品供給者により、固定価格にて販売される商品の消費リスクコストを管理する方法であって、
(a)商品供給者と当該商品の消費者との間の一連の取引を開始するステップであって、その取引においては、前記消費者は前記商品をこれまでの平均値に基づく固定レートにて購入するものであり、前記固定レートは前記消費者のリスクポジションに対応しているステップと、
(b)前記消費者とは反対のリスクポジションを有する、前記商品の市場参加者を特定するステップと、
(C)商品供給者と前記市場参加者との間の一連の取引を第2の固定レートにて開始するステップであって、前記一連の市場参加者の取引は、前記一連の消費者の取引のリスクポジションをバランスさせるステップとを備えた方法。

判決によると、この発明の概要は以下のとおりである。
たとえば、石炭による火力発電所(これを「消費者」とする)が、石炭を購入する際に、石炭の需要が急激に大きくなるとその価格が上昇し電力のコスト上昇を招くというリスクを軽減したいと考えているとする。一方、石炭を掘り出す炭坑会社(これを「市場参加者」とする)は、石炭の需要の急激な冷え込みによる販売不振と価格低下というリスクを軽減したいと考えているとする。本件発明の方法では、「商品供給者」が、電力会社に対して石炭を固定価格で販売することにより、急激な需要増加により電力会社が受ける影響を排除することができる。「商品供給者」は、第2の固定価格により炭坑会社から石炭を買い付けるので、需要の急激な落ち込みにより炭坑会社が受ける影響を排除することができる。「商品供給者」は、石炭の価格が急激に上昇したとき、市場価格と比べると安い価格で石炭を販売しなければならないが、市場価格と比べると安い価格で石炭を仕入れることができるので、リスクをヘッジすることができる。石炭の価格が急激に下がった場合も同様にして、リスクヘッジができる。なお、これは一例であり、クレームされた発明は、特定の商品に限定されていない。

審査官は、101条(法定の主題)に合致しないとして本件出願を拒絶したため出願人が審判を請求したところ、"useful, concrete and tangible result"を奏しないとして、審査官の判断を維持した。そこで、出願人が、この審決に不服であるとしてCAFCに控訴したのが本事件である。

■判決
 最高裁判例(Benson判決, Flook判決, Diehr判決など)を引用し、Freeman-Walter-Abele test((1)クレームがアルゴリズムに言及しているか、もしそうなら(2)そのアルゴリズムが物理的な要素または製法に応用されていれば法定の主題とする)にも言及した上で、方法の発明が法定の主題に当たるかどうかを判断する際の基準として、machine-or-transformation testを採用することを明らかにしている。なお、Allapt判決や、State Street Bank判決で採用された"useful, concrete and tangible result" testは、妥当でないとされている。本判決が採用するmachine-or-transformation testは、(i)機械の使用あるいは対象の変換が意味のある限定となっており、(ii)これら機械の使用あるいは対象の変換がとってつけた重要性のないものでないことの2つを満足した場合に、法定の主題であると判断するものである。

 本件出願は、(i)を満足しないので、法定の主題には該当しないと判断した。

■まとめ
 ビジネス方法の特許性(法定の主題に該当するかどうか)が問題になったこれまでの判決では、コンピュータなどを用いたビジネス方法が問題となっていたが、本事件は、コンピュータを用いない純粋なビジネス方法の特許性が問題となっている。この点において判決が待ち望まれていた。

 この判決により、物理的な変化をもたらさない純粋なビジネスモデルの特許は、米国でも取得できないことが明らかになった。本事件が係属したころ、米国特許庁のウエブサイトにアップされていた101条の判断のためのスライド資料が削除された。このスライドには、人間の精神活動であることは法定の主題にとって重要な問題ではなく、useful, concrete and tangible resultがあるかどうかが重要であると記載されていた。米国特許庁も、ある段階でこの判決を予想していたのかも知れない。あるいは、特許庁内部でも見解が分かれていたのかも知れない。

 判決において示された、machine-or-transformation testは、日本における発明の成立性としての「ハードウエア資源の利用」よりは、緩やかに思える。純粋なビジネスモデルについては、米国といえども出願しないという方向になるであろう。ただし、これまでにも、コンピュータシステムとなっていない純粋なビジネスモデルだけを出願したケースはわずかしかなく実務的な影響は大きくないと思われる。多くの場合、コンピュータシステムとして出願するからである。

 なお、本判決では、Benson判決, Flook判決, Diehr判決やFreeman-Walter-Abele testなどが詳細に引用されており、雰囲気としてはやや昔に戻ったような印象である。気になることは、本判決は、これら先例の結論をあわせて考慮すれば、machine-or-transformation testにたどり着くとしている点である。これら先例がmachine-or-transformation testの考え方を示しているのは事実であるが、先例はmachine-or-transformation testの考え方に合致しない限り法定の主題に合致しないとはしていないようにも思える。本判決の考え方が、修正される可能性もあるだろう。

 なお、3人の判事(Rader,Mayer,Newman)が反対意見を述べており、Newman判事は本件発明が法定の主題に合致するとしている。Mayer判事は、ビジネス方法は、完全に法定の主題から排除されるべきであるとの意見を述べている。

■判決原文
 判決原文は、下記ページから
http://www.furutani.jp/news/bilski.pdf




NOTES


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