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米国最高裁、伝統的な差止4要件の適用を明確にする  

古谷国際特許事務所ニュースレター135号
(C)2006.5 FURUTANI PATENT OFFICE
2006.5.16



概要


 2006年5月15日、米国最高裁は、eBay対MercExchange事件において、特許権侵害における差止請求を認めるか否かについて、下記の伝統的な差止4要件全てを満たすかどうかによって判断すべきであるとし、差し戻した。
(1)回復不可能な損害があること
(2)金銭賠償などの法的な救済が損害の補償に不十分であること
(3)原告・被告に生じる不利益のバランスを考慮して、衡平の原則による救済が保証されていること
(4)差止により、公共の利益を害さないこと




内容


この事件(eBay対MercExchange事件(U.S., No.05-130,5/15/06))は、MercExchange社の有するインターネット上での電子商取引に関する特許を、eBay社やHalf.com社らが侵害したとして、MercExchange社が訴えていたものである。

バージニア東部地方裁判所では、陪審員が、特許の有効性を認めて特許権侵害を認め、損害賠償額も妥当であると判断した。(なお、eBay社およびHalf.com社は、特許庁において引き続き特許無効の主張をしている)しかし、地裁評決は、MercExchange社による差止請求は認めなかった。地裁では、伝統的な4要件を採用したうえ、特許権者がライセンスを目的としている場合や実施をしていない場合には、差止を認めなければならないほどの回復不可能な損害はないとした。

控訴審であるCAFCは、特許権侵害が認められれば差止も自動的に認められるとし、これが認められないのは特殊な状況、特別なケースに限るとした。そして、本件は特殊なケースではないとして、差止を認めた。

今回の最高裁判所の判決は、地裁もCAFC(巡回控訴裁判所)のいずれも、定型的にルールを適用しており、誤りがあるとした。

そして、特許権侵害における差止請求を認めるか否かは
(1)回復不可能な損害があること
(2)金銭賠償などの法的な救済が損害の補償に不十分であること
(3)原告・被告に生じる不利益のバランスを考慮して、衡平の原則による救済が保証されていること
(4)差止により、公共の利益を害さないこと
の4つの要件によって判断すべきとした。

伝統的な4要件を採用するという点では、地裁と同じ立場である。しかし、地裁が、特許権者がライセンスを目的としている場合や実施をしていない場合には、差止を認めなければならないほどの回復不可能な損害がないとして、この様な場合に一律的に差止を否定した点を批判している。最高裁によれば、地裁のように定型的な判断をすると、大学の研究者や個人の発明家のように、適正なライセンスを希望する特許権者も、4要件を満たさなくなるので、好ましくないということである。

一方、CAFCのように、侵害があれば自動的に差止を認めるという考え方も否定した。最高裁は、差止請求は衡平の原則にしたがって認めることができる(283条)として、4要件を採用すべきであるとした。

判決文は、下記URLを参照下さい。
https://www.furutani.jp/news/eBay.pdf



まとめ


差し戻しによって4要件が判断され、今回のケースが要件を満たさないという結論になれば、いわゆるパテントマフィア等による権利行使に、少しでも歯止めがかけられることになろう。




NOTES


この資料は、下記の著作権表示をしていただければ、複製して配布していただいて結構です(商業的用途を除く)。 (C)2006 FURUTANI PATENT OFFICE /



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